tonchiroの日記

話題性とは関係なく、自分の興味だけで紹介していきます。本とか映画とか音楽とか。

【積読本読書日記】「性的人間」大江健三郎

かなり前から本棚にあった本です。内容は全く覚えておらず、新鮮に読むことができました。おそらく買ったのは中学生だったか。その年齢では、理解するのは無理だったかもしれません。

 

「性的人間」。1と2の2つの章に分かれています。1で主人公を含んだグループが、別荘に映画の撮影に向かいます。このグループ、めちゃくちゃな人たちです。酒ばっかり飲んでるし、全裸の若いジャズシンガーはいるし、乱交やら男色やら。芸術家っぽいことを言っているように見えますが、何だか考えていることは弱っちい気がしてしまいます。正直、小説がどこに向かっているのか全くわかりません。

でも、そこを何とか通り抜けて、2に入ると話は全く変わります。少し落ち着いて読めるような気もしますが、主人公には共感できません。痴漢だからです。ただ、趣味として痴漢をしているのではなく、主人公自身も、痴漢は犯罪であり一種の精神的な病と認識しているので、不愉快ながらも何とか読み進められます。2では、1の登場人物は背景とし登場するだけで、主人公以外の主要人物は新たに登場します。老人と若い詩人です。はじめは、主人公と老人が何をしようとしているのかわからないのですが、若い詩人と出会うことで明らかになります。少年も仲間に入り、三人での行動となりますが、少年はすぐに別行動を取ると宣言し、ショッキングな最期を遂げます。小説の中では、この少年が最も好意的に描かれているように思えます。行動には共感できませんが。一方、主人公のJは、ダメダメな終わり方をします。おそらく、人生を棒に振ってしまうのでしょう。暗い小説です。

 

「セヴンティーン」。内向的でひ弱な17歳の濃密な内部世界が、一人称で語られます。その少年も、ふとしたきっかけで右翼団体と出会い、急激に変身します。団体の制服を着れば無敵です。山口二矢がモデルとなっていますが、おそらく、大江健三郎とは思想的にはまったく相容れない少年の内面が、ここまで詳細に描けるものか。想像力に圧倒されます。そして、小説は、少年が忠とは私心を持たないことと悟って終わります。解説によると、話は「政治少年死す」につながるようです。ぜひ読みたい。現実世界での右翼の脅迫で出版されなかったようですが、アマゾンで調べると、今は「大江健三郎全小説」の第3巻に収録されています。しかし、税込み5,500円。収録されているのは、既読の小説も多く、なかなか簡単にはぽちっといけません。

 

「共同生活」。説明もなくいきなり猿が登場して、戸惑います。でも、そこは大江健三郎なので、不条理小説にはならず、恐迫強迫神経症による妄想と説明されるのですが。部屋に猿がいると思い込んでいる青年は、職場でも孤立した部署の中でさらに孤立していて、精神的に追い詰められていく過程が、読んでいる側もつらくさせます。最後は医者の診断を受け、恋人も部屋に現れるのですが、本人にとっては幸せな終わり方ではないような書かれ方です。解説によれば、小説の主題は、サルトルの思想にある実存の問題らしいのですが、サルトルを読んだことがないので、そこはわかりませんでした。